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ブラック企業対策プロジェクトで行った、固定残業代についての調査の結果と、厚生労働省に対して行った申入れの詳細を以下に掲載します。ぜひご覧ください。

それそれのPDFはこちら。

 

いわゆる「固定残業代」に関するハローワーク求人実態調査

 

 固定残業代申入書(厚生労働省宛 )

 

いわゆる〈固定残業代〉に関するハローワーク求人実態調査

2014年7月29日

ブラック企業対策プロジェクト

監修:渡辺輝人(京都第一法律事務所)

1. はじめに

 近年、多くの事業所で、一定額の残業代※1をあらかじめ設定する〈固定残業代〉(定額残業代)が導入されています。

 〈固定残業代〉は契約時にその内容が不明瞭な場合が多く、また、固定した額以上の金額を支払う必要があっても使用者がその清算を行わないなど多数のトラブルが発生しております。

 こうした状況の下、いくつかの判決の積み重ねによって、〈固定残業代〉を導入・運用する際のルールが確立しつつあります。私たちブラック企業対策プロジェクトも、実態調査や啓発活動に取り組んでまいりました※2。また、厚生労働省も2014年4月に事務連絡※3を発し、運用基準を用いてハローワーク求人の適正化に努めています。

 しかしながら、依然として〈固定残業代〉に関するトラブルは耐えません。そこで私たちは、求人の段階で、どの程度の求人がハローワークの基準を遵守しているか実態調査を行うことにしました。

 

2. 調査の概要

a) 調査期日

2014年6月14日

 

b) 調査方法

・  ハローワークインターネットサービス※4の求人情報検索を活用した。

・  2014年6月1日以降に受理された一般(フルタイム)求人のうち、フリーワード検索で「固定残業代」「みなし残業」という文言を含むものを抽出した。

・  このように抽出された742件(同一事業所含む。)の求人から、ランダムに200事業所の求人を調査した。

・  過去の判決や厚生労働省が示した基準を参考に下記の6つのチェック項目を設け、求人の違法性をチェックした。

①      固定残業代の金額が記載されているか

②      固定残業代が何時間分の残業代であるか記載されているか

③      最低賃金を下回っていないか

④      法定割増率を下回っていないか

⑤      時間外労働の有無にかかわらず固定的に支給される旨の記載があるか

⑥      超過分の支払いが必要な場合、残業代が追加で支給される旨の記載があるか

・  どのくらいの残業時間に相当する残業代が固定的に含まれているかを調査した。

 

3. 調査結果

・  6つのチェック項目のいずれかに抵触するものを「違法またはその疑いが強い」求人と判定したところ、200事業所のうち、179事業所(89.5%)の求人が違法またはその疑いが強いとわかった。

・  チェック項目ごとの違反件数及び違反率は下記の通り。

①      固定残業代の金額が記載されていないもの…91件(45.5%)

②      固定残業代が何時間分であるか記載されていないもの…65件(32.5%)

③      金額・時間が記載されている求人(95件)のうち最低賃金を下回っているもの…0件(0.0%)

④      金額・時間が明示されている求人(95件)のうち法定割増率を下回っているもの…52件(54.7%)

⑤      固定残業代が時間外労働の有無にかかわらず固定的に支給される旨の記載が無いもの…94件(47.0%)

⑥      超過分が追加で支給される旨の記載が無いもの…66件(33.0%)

・  どのくらいの残業時間に相当する残業代が固定的に含まれているかを調べたところ、下記の割合を示した(示した割合は、固定残業代が何時間分であるのかを記載していない求人65件を除く135件に占めるもの)。

           30時間未満:31.7%

           30時間以上45時間未満:63.4%

           45時間以上80時間未満:4.9%

           80時間以上:0.0%

 

4. 調査を受けて

 今回の調査では、〈固定残業代〉を導入している企業の求人のうち、約9割が違法の疑いが強いものと判明しました。ハローワークが独自の運用基準を示してから一定期間が経過してなお、高い割合で違法の疑いが強い求人が出されていることになります。

 さらに付け加えれば、こうした独自基準を設けて指導に努めているのは現段階ではハローワークのみであり、民間就職情報サイトなどの求人広告は事実上〈固定残業代〉の記載に関して野放しの状態です。また、〈固定残業代〉は違法な運用が行われる場合が多く、求人段階で違法の疑いが強いと認められなかったとしても、違法でないと断定できるわけではありません。適正な〈固定残業代〉は、全体の総量のうち、ごく僅かにとどまるものと思われます。

 

※1簡潔さのために「残業代」と表記しましたが、正確には法定時間外労働割増賃金・法定休日労働割増賃金・深夜早朝労働割増賃金・法内残業賃金のいずれかを指しています。

※2 2014年3月に〈固定残業代〉に関する京都のハローワーク求人を調査しました。詳細はこちら(http://bktp.org/news/896)からご覧になれます。今回の調査は、4月の「事務連絡」を受けて、全国の求人を対象に新たなチェック項目を設けて調査したものです。

※3厚生労働省職業安定局首席職業指導官室中央職業指導官発事務連絡「求人票における固定残業代等の適切な記入の徹底について」。こちら(http://bktp.org/wp-content/uploads/2014/06/2014.4.14%E4%BB%98%E3%81%91-%E6%B1%82%E4%BA%BA%E7%A5%A8%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%9B%BA%E5%AE%9A%E6%AE%8B%E6%A5%AD%E4%BB%A3%E7%AD%89%E3%81%AE%E9%81%A9%E5%88%87%E3%81%AA%E8%A8%98%E5%85%A5%E3%81%AE%E5%BE%B9%E5%BA%95%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf)から閲覧可能です。

※4こちら(https://www.hellowork.go.jp/index.html)から利用可能です。

以上。

 

申 入 書

2014年7月15日

厚生労働省 御中

(ご担当:訟務渉外調整係長 田谷様)

ブラック企業対策プロジェクト

(担当:佐藤学)

 

 近年、多くの事業所で法定時間外労働割増賃金・法定休日労働割増賃金・深夜早朝労働割増賃金・法内残業賃金(以下「残業代」とします)について定額の賃金をあらかじめ設定する定額残業代制(固定残業代制)が導入され、公共職業安定所における求人票でもこの制度が多く見られます。しかし、この制度は残業代である旨の表記が不明瞭な場合が多く、また、定額残業代(固定残業代)に対応する残業時間を超えても別途の清算がされないなど多数のトラブルが発生し、裁判所でも定額残業代制(固定残業代制)を違法とする多くの判決が出ているところです。

 今般、私たちは「ハローワークインターネットサービス」において、「固定残業」、「みなし残業」のキーワードを入力し求人検索を行いました。そして、定額残業代制(固定残業代制)を導入している求人票200件(6月14日検索時点でランダムに200事業所の求人を調査)について、2014年4月14日付け厚生労働省職業安定局主席職業指導官室中央職業指導官事務連絡「求人票における固定残業代等の適切な記入の徹底について」に基づき、①固定残業代が何時間分であるかの記載の有無、②固定残業代が何時間分か記載されているが超過した場合に別途支給する旨の記載の有無、③超過した場合に別途支給する旨は記載されているが、固定残業代が何時間分かの記載の有無、④時間外労働の有無にかかわらず固定的に支給されるものであることの記載の有無、を調査しました。さらに、上記事務連絡には不適切な記載事例の一つとしては記載されていませんでしたが、⑤最低賃金以上の時給を保証しているか、⑥固定残業代が1時間あたりの通常賃金の割増率を上回っているか、もチェック項目に加えて調査しました。

 その結果、①から⑤の基準を満たさず、違法またはその疑いがある求人票が計179件(89.5%)ありました。

 また、定額残業代制(固定残業代制)のみならず、求人票と実際の労働条件が解離し、トラブルとなる事例も多数知られています。

 そこで全国の公共職業安定所で公開する求人票について、下記の各点を徹底するよう要望します。また要望に対するご回答を、担当者の方より直接面談にて伺えましたら幸いですので、ご検討の程よろしくお願い申し上げます。

 

 

  1. 求人票の労働条件において定額残業代(固定残業代)の制度が導入されている場合は、その求人を出す事業所に

①      定額残業代(固定残業代)となる部分または手当の金額の明示

② ①の金額に対応する時間外労働時間・法定休日労働時間・深夜早朝労働時間・法内残業時間の明示

③ 金額と対応する残業時間の関係について計算根拠の明示

④ 定額残業代(固定残業代)に対応する残業時間を超える残業があった場合には別途清算する旨の明記を徹底させること。

  1. 求人票の「時間外」の項目に「あり」と記載されている求人については、事業主に対して36協定の提示を求め、労働基準監督署による受理印の有無そして36協定に記載されている労働時間と対象職種と実際の求人票に書かれている内容の相違についての確認ができるまで求人を掲載しないこと。
  2. 求人票の「時間外」の項目に、36協定の延長限度である年360時間の一ヶ月平均である月平均30時間を超える時間外労働時間が記載されている場合は、その求人を掲載しないこと。
  3. 求人票の「賃金」の項目では、「a 基本給(月額平均)又は時間額」、「b定額的に支払われる手当」、「cその他の手当等付記事項」となっており、固定残業代はb欄に記載されることになっている。しかし、「定額的に支払われる手当」には、時間外割増賃金等の計算の際に1時間あたりの基礎単価となる「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」(以下「基礎時給」とする)の算定基礎に含まれる賃金(以下「基準賃金」とする。)と含まれないもの(除外賃金、固定残業代など)の両者があり、この欄に記載されることになる。これでは、求職者が求人票の記載から基礎時給を把握するのは困難であり、残業代支払いにおけるトラブルの元となる。この状況を改善するために、①新たに欄を設け、基礎時給を記載させること、②その計算根拠が確認できるように、a,b、c欄についての記載ルールを以下のように改めること。

 aを基本給、b基準賃金となる手当とし、cをb以外の手当(除外賃金、固定残業代など)と区分すること。

 このようにすることで、a+bが基礎時給を算出する根拠となりトラブルを減らせると考える。

  1. 労働基準監督署と連携し、監督署などから告発を受けている会社などの求人票は掲載しないこと。
  2. 求人票と実際の労働条件との違いがないかチェックするために採用時に労働条件明示書を法律に基づいて提示することを徹底させること。
  3. 求人票の書式に、求人を出す事業所が「この求人票に基づいて労働契約の申込をした労働者を採用する際には、当該労働者に対して最低でもこの求人票に記載された労働条件を保障します。」旨の意思表示ができる欄(任意のチェック欄)を作成すること。
  4. 労働条件明示書と求人票との違いがある場合、事業所にその理由を説明をさせること。
  5. 求人票の記載と実際の労働条件に相違があったことが判明した場合、当該事業者に対してペナルティーを設けること。(例えば相違があった場合、1年間は求人申込サービスを利用できないなど)
  6. 固定残業代の記載のある求人のほとんどが違法または違法の疑いがあると考えられるため、全国の各労働基準監督署は、固定残業代の記載のある求人を出している事業所における残業代未払いの実態調査を行い、さらには固定残業代の記載のある求人を出している事業所に対しては重点的に監督および指導を行うこと。

以上

 


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