虚偽求人対策に関する厚生労働省申し入れのポイント
〜7月13日(月)、厚生労働省に申し入れを行いました〜
私たちブラック企業対策プロジェクトは、現在、グリーンディスプレイ社の過労事故死訴訟を支援しています。この事件においては、被害者である故Aさんが、ハローワークの新卒求人を見て実態とは異なる条件にひかれて入社していた経緯がありました。これは、近年注目を集めている「ハローワークにおける求人と実態の相違」の問題と深く関わっています。
そのため、厚生労働省に対し、再発防止のための対策の要望の申し入れをすることといたしました。現在法改正に向けた動きもありますが、現行法の枠内でも講じられる対策は十分にあります。民間求人の対策が遅々として進まない中、職安行政に率先して対策を示していただきたいと考えています。
今回私たちが申し入れを行ったポイントは下記の通りです(申入書はPDFを参照してください)。
Ⅰ.固定残業代対策
まず、月給の中に一定の残業代を含む「固定残業代」の問題があります。これは求人としての虚偽性が強く、運用上も違法な実態が多く見受けられるものです。求人段階で違法性が強く疑われる「固定残業代」に規制をかけることで、求職者が正確な情報に依拠して就労先を選択できるようになります。
【項目1】
時間外労働を「あり」とする求人や固定残業代を含む求人を受け付ける際には、事業主に36協定を提出させるべきです。36協定が無ければ残業は違法なので、その点を踏まえて求人段階で指導することができます。
【項目2】
求人票に記載された残業時間や固定残業代に対応する残業時間が月30時間を超える場合には、指導を行うべきです。現在、後者については、36協定の「限度時間」(図表1参照)を根拠として、月45時間を超える残業時間に相当する固定残業代は指導の対象とされています。しかし、求人票は特別な条件が無い限り、基本的に一年以上の雇用を見込んで提出されるものです。したがって、月45時間を指導の対象とするのと同じ論理で、年間360時間の範囲におさまるよう、月30時間を指導の対象とすることができます。
図表1 限度時間(厚生労働省「時間外労働の限度に関する基準」)
【項目3】
求人票の「賃金」は、細かく見ると「a 基本給(月額平均)又は時間額」、「b定額的に支払われる手当」、「cその他の手当等付記事項」の3つにわかれています。そして、賃金の月額として表示されるのは、「a」と「b」の合計額です(図表2参照)。現在「固定残業代」はbに記載されるため、「固定残業代」を多く含む求人の方が見かけ上の時給が高くなります。そうすると、求職者の側は実際の時間単価を見比べて求人を探すことが困難になります。さらに、これは求人を出す企業にとって「固定残業代」を導入するインセンティブとなり、ますます労働市場が攪乱されます。そこで、従来の表記をやめ、「固定残業代」は記載するとしても特記事項とすべきだと考えます。
図表2 ハローワーク求人票の賃金欄(簡潔な記載例を付記)
【項目4】
「固定残業代」は適切な運用の下では企業にとってほとんどメリットの無いものです。したがって、「固定残業代」が導入されている企業においては、労働基準監督署が重点的に調査し、監督・指導を行うべきです。ハローワークにはそのための連携を求めます。
Ⅱ.違法な求人を受け付けない
以下の項目では、「固定残業代」以外の違法な求人を減らすための工夫を提案しています。
【項目5】
労働基準監督署と連携し、監督署などから是正勧告・指導を受けている会社などの求人票は掲載すべきでありません。違法な状態の改善を条件とすることで、企業に自主的な改善を促すことができます。
【項目6】
求人票の書式を改め、求人を出す事業所が「この求人票に基づいて労働契約の申込をした労働者を採用する際には、当該労働者に対して最低でもこの求人票に記載された労働条件を保障します」という旨の意思表示ができる任意のチェック欄を設けることを提案しています。違法求人の取り締まりというアプローチだけではなく、適正な求人が適切に示さされる仕組みを設ける必要があります。
【項目7】
労働条件を書面で明示することは使用者の義務です。これが守られていない実態があるため、採用時には労働条件明示書を提示するよう、企業に徹底させるべきです。また、そうすることで、労働者の合意を前提に、求人票と労働条件明示書との違いがないかを点検することができます。
【項目8〜11】
労働条件明示書と求人票との違いがある場合には、事業所にその理由を説明させ、その頻度や重大性などに応じて、企業名公表・刑罰規定の活用・求人掲載停止などの措置を講じるべきです。